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高松高等裁判所 昭和33年(う)323号 判決 1959年6月24日

被告人 小松喜久野

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年及び罰金二万円に処する。

但し本裁判確定の日より三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

しかし記録を精査するに、被告人は既に昭和二一年頃から売春婦を雇傭し、これら婦女に客と性交をなさしめ、その対償の分け前を取得することを営業となし来つたものであるが、昭和三三年四月一日売春防止法が施行された後も簡易料理店の名目の下に必要な夜具類はもとより便所には洗滌器を備付け、全く従来と同様雇入れた婦女を自宅に居住させ、専ら被告人が交渉をして定めた客を相手として被告人方又は被告人の指定する附近の旅館等で売春をさせ、その受ける対償は売春婦に六分を与え、残余の四分を被告人が取得する方式によりいわゆる売春宿を経営し来つたものであることを認むるに充分であるから、かような業態は売春防止法第一二条所定の人をして売春をさせることを業としたものに該当することは明らかである。従つて原判決がその判示第一事実につき業としたと認定したのは相当であつて、審理不尽の不当も事実の誤認もない。なおその他論旨が述ぶるところを具さに検討しても何れも首肯し難く論旨は理由がない。

次に職権で調査するに売春防止法第一二条に規定するいわゆる管理売春の罪は、人を自己の占有し若しくは管理する場所、又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした場合に成立する罪であるから、かような業態を続ける限り、自家に住込の売春婦として雇入れる婦女にその雇入れの際売春をさせることを内容とする契約をなすが如きは、この営業の遂行上常に当然附随する事務の一部に過ぎない。従つて人に売春をさせることを業とする者がその業の遂行上住込の売春婦として雇入れる婦女に雇入れに当り売春をさせることを内容とする契約をしても、その契約をしたこと自体は売春防止法第一二条の罪と一体をなし、同法第一〇条違反としての別個独立の犯罪を構成するものではないと解すべきである。然るところ、原判決はその判示第一に、被告人は昭和三三年五月初旬頃から同年六月二九日頃迄の間、水口鬼子子を自宅二階三畳の間に居住させ、同女をして同所又は附近の旅館等で不特定かつ多数の客を相手に性交をさせたうえ、その対償中六分を同女に与え、残り四分を自己に於て取得し、以つて売春をさせることを業としたとして人に売春をさせることを業とした罪を認定した外、その判示第二の(二)及び(三)として、被告人は昭和三三年六月二七日被告人方自宅で谷脇二三子及び岡田艶子との間にそれぞれ同女等をして対償を受けて不特定の相手方と性交をさせることを内容とする契約をしたものとして売春防止法第一〇条違反の犯罪事実を認定しているのである。しかし被告人は前記第一の人に売春をさせる業の継続中である昭和三三年六月二七日に右谷脇二三子及び岡田艶子の両名を売春婦として雇入れ、同女等との間にそれぞれ同女等を被告人方に居住させ、専ら被告人が交渉をして定めた客を相手に被告人方又は被告人の指定する旅館等で売春をさせる契約をしたものであることは、右谷脇二三子及び岡田艶子の検察官に対する各供述調書並びに被告人の検察官に対する供述調書により明らかに認められるところであるから、右両名に関するこの事実は原判示第一の一罪としての業態犯を構成する一部である筈である。故にこの事実をも原判示第一の業態犯中に包含せしめて認定すべきもので、契約面のみを取り上げてこれを売春防止法第一〇条違反としての別個独立の犯罪を構成するものとなすことは許されないものといわなければならない。然るにこれらを各独立の前記法条違反の犯罪として認定し併合罪の規定を適用した原判決は事実を誤認したか或は法律の解釈を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

よつて本件控訴は結局理由があるから刑事訴訟法第三九七条第一項により原判決を破棄した上、同法第四〇〇条但書により当裁判所は更に判決する。

罪となるべき事実、

被告人は高知市要法寺町一〇〇番地所在の賃借家屋に居住し、同所で簡易料理店「こまつ」を経営しているものであるが、

第一、昭和三三年五月初旬頃より同年六月二九日頃迄の間水口鬼子子(当時二六才)を前記自宅に居住させ、同女をして同所又は附近の旅館等で不特定かつ多数の客を相手に性交させたうえ、その対償中六分を同女に与え残り四分を自已に於て取得した外、同年六月二七日前記自宅で谷脇二三子(当時二五才)及び岡田艶子(当時二三才)との間にそれぞれ同女等を前記自宅に居住させ同所又は附近の旅館等で不特定かつ多数の客を相手に売春をなさしめる契約をなし、以つて人に売春させることを業とし、

第二、同年六月一一日頃前記自宅で岡崎孝子(当時三二才)との間に、同女をして対償を受けて不特定の相手方と性交をさせることを内容とする契約をなし、

第三、同年一月二〇日頃前記自宅で岡村須真子(当時一七才)との間に、同女をして対償を受けて不特定の相手方と性交をさせることを内容とする契約をなし

たものである。

証拠、

原判決に示すとおりである。

法令の適用

被告人の判示第一の所為は売春防止法第一二条に、同第二の所為は同法第一〇条第一項に、同第三の所為は婦女に売春をさせた者等の処罰に関する勅令第二条、売春防止法附則第三項に各該当するから、右判示第二第三につき各所定刑中懲役刑を選択すべきところ、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文及び但書第一〇条に則り最も重い判示第一の売春防止法第一二条違反の罪の懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内並びに同条所定の罰金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二万円に処するも、右懲役刑については諸般の情状により刑法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間その執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは同法第一八条に従い金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置するものとする。而して当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告人をして全部これを負担せしめる。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 三野盛一 渡辺進 小川豪)

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